あなたは答えられる!? 井筒啓之『もんだい』
イラストレーターの五島夕夏さんがおすすめの絵本を紹介するYouTubeチャンネル「五島夕夏の絵本チャンネル」。
今回五島さんが紹介するのはこちらの絵本です!
井筒啓之さんは大御所イラストレーター
今回紹介するのは、井筒啓之さん作の『もんだい』という絵本です!
作者の井筒啓之さんは普段イラストレーターとして活躍されている方です。私もまだ駆け出しのイラストレーターではあるんですけど、井筒さんはかなりの大御所!
私が学生時代から本の装丁やポスターでよく見かけている方だったので、今回絵本を出版されたという話を聞いてすごくびっくりしました。
ベストセラー本の装丁を多数手がけている井筒さん
魅力的な表情やポップな色合いが特徴の人物画を描かれているイメージが強いです。
絵本の概念がくつがえされる
こちらの絵本、フォントが目立つ表紙から、すごく引き込まれるものがあります。
もうこの表紙の時点で、一個の文学作品みたいな雰囲気が伝わってきていて、絵本っぽくないですよね。いわゆるキャラクターや登場人物がいてタイトルがあるっていう絵本の表紙の常識とはちょっと違います。
中身のほうも、私が抱いている絵本の概念がかなりくつがえされるような内容になっていて、15人の著名な歴史的人物から、ひとつひとつ問いが投げかけられるような流れになってるんです。
「帯の文句が印象的」と五島さん。「世界を変えた15の「もんだい」あなたはこれに答えられますか?」
一枚一枚がまるで原画のよう
まずパラパラっと絵本をめくると、ページごとにメインとなる色合いがあって、それがパッと目に入ってくるのがすごくきれいですね。めくったときの気持ちよさがすごくある絵本だと思います。
紙は絵本ではめずらしく、五感紙という紙が使われています。一般的に絵本で使われる紙は、さらっとしてたり、光沢紙やマット紙など質感がないものだったりするのですが、この絵本は表紙に使うような紙を中ページにも使っているということにすごく驚きました。絵本っぽくない手法はここにも使われているんですね!
印刷がすごくきれいということもあるのですが、こうした少しテクスチャのある紙であることで、まるで一枚一枚が印刷ではなく原画のように見えるのがすごく面白いと感じました。
絵本って子どもが読むというのが主な使い道のイメージですけど、これはなんとなく大人でもそっと開いて、一枚一枚大事にめくりたくなるような雰囲気があるんですね。それはきっとこの紙の質感もあるんですけど、絵が生々しくて原画に見えるような錯覚がすごくあるんですよ。だから丁寧にめくらないとなんか申し訳ないんじゃないかなって気持ちになる。画集を一枚一枚開いているような感じでめくりたくなります。
15の問いかけ
内容の問いかけなんですけど、まず表紙を見てどんなことを問いかけられるんだろうって思うじゃないですか。
で開いて……、
まず第一に、この「あなたはなぜあなたなのですか?」っていう問いかけがあるんですけど、もうこの時点で子どもはびっくりですよね、答えられない(笑)私が小さいころこれを読んでいたら、「私はなんで私なのか!? え〜!?」みたいにきっとなってただろうなと思います。
もちろん大人でもドキッとするような、そんなこと言われてもちょっと逃げ腰になりたくなるような問いかけですよね。もう答えられないと言っていいと思います。
そんな「いやこんなこと答えられないよ!」って言いたくなるような問いかけがとにかくずっと続くんですね、この絵本は。絵本と言っていいのか難しいくらいなんですけど。
受け手によって読み方が変わる
でも私がこれを最初にパラパラって見て思ったのは、実はこれって、なにも怖いものがない子どもの方が、適当にパって答えられるんじゃないかなということなんです。「ぼくはぼくだからそれ以外のなにものでもないもん」とか「パパとママの子どもだからぼくなんだよ」とかいうように、子どもの方がすんなり答えられる質問なのかもしれません。
きっと大人の方が、なにかこねくりまわしたり、今までの人生経験とかをいっぱいいっぱい頭で考えて言葉に詰まってしまったりするんじゃないでしょうか。
そこの大人と子どもとのギャップを楽しめる作品だと、初めて読んだときに思いました。
当たり前かもしれないんですけど、この問いかけに対する答えっていうのは人それぞれ違うと思うんですね。でも違うことが悪でもないし、みんなが同じだからいいわけでもない。
きっとこの15個の「もんだい」の自分なりの正解を人生の中で見つけられたら、かなり充実した一生だと思います。それぐらい、一生の中で必要な問いかけっていうものが、この15個に詰まっているような気がします。それだけ逆に答えるのが難しいというか、死ぬまでわからないこともあるかもしれない問いかけだと思います。
このすごく魅力的な井筒さんの描く表情と、このたったひとことの問いかけとっていう、一ページがすごくシンプルなんですけど、考える人なら何時間でも考えてしまうような時間も与えられるし、でも子供みたいにただ文字を読んでぱって答えるような年齢だったら本当に一瞬で読み終わるかもしれない。受け手によって与えらる時間がすごく変わる絵本だなとも感じました。
悩ませる絵本
すごくこの一個一個の問いかけが重いというか(笑)
実は私はなにかに悩んだときは、お気に入りの絵本やそのときの気分に合った絵本を読むようにしてるんです。そうすることで悩みを一時的に忘れたり、軽い気持ちになったり。
でもきっとこの絵本に関しては、なにかに悩んだときに読んだらより一層悩むと思います(笑)
でもそれもすごくありかなと。
なにかを考えつくしたり悩み尽くしたり、いざ問題を突きつけられたときにぐっとこらえながらも考え切ったときの快感って、悩みから逃げたときよりもずっとずっと大きいもののはず。だからもしかしてなにかに悩んだ時って、とことんこういうものを読んで問いかけられて悩みつくすっていうのもありなのかなって初めて思いました。私は絵本は癒されるものっていう固定観念があったんですけど、こんなふうに悩ませるような絵本があってもいいんだって。
まあ絵本というより画集や文学作品に当てはまるぐらいすごく重い絵本だと思います。その重さは受け手によってすごく変わると思うので、ぜひぜひこの一枚一枚のページを、書店で見るだけじゃなく手に入れて感じてほしいと思います。
ということで、今回紹介したのは井筒啓之さんの『もんだい』という絵本でした。
なんかすごく悩んだときに読んだらきっともっと落ち込んでしまうかもしれないけど、そういう経験もありかなと思わせてくれる一冊です。
皆さんもぜひ読んでみてくださいね!
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