思わずツッコみたくなる!『うごいちゃだめ!』
YouTubeチャンネル「五島夕夏の絵本チャンネル」では、イラストレーターの五島夕夏さんがおすすめの絵本を紹介しています。
今回紹介するのはこちらの絵本です!
エリカ シルヴァマン ぶん、S.D. シンドラー え『うごいちゃだめ!』。
訳は他の多くの絵本でも翻訳を担当しているせなあいこさん。
泳ぎや飛び方で競っていた負けずぎらいのガチョウとアヒルが、「うごいちゃだめ」ゲームを開始。
顔のまわりに虫が飛んできても、他の動物が寄ってきてもがまんして動かず……。
そこへ、悪いキツネがやってきて、2匹を袋につめて持って帰って食べてしまおうとたくらみます。
それでも動かないガチョウとアヒルは、キツネとどう決着をつけるのか……?
いやキツネに持ってかれそうになったらさすがに動くでしょ!?
と、思わずツッコミを入れたくなるストーリーと、全体的にまぬけな雰囲気に、クスッと笑ってしまいます。
おそらく対象年齢は5〜6歳かと思われますが、きっと子どもでもこの絵本を読み聞かせてもらったときに「なんでうごかないの〜!?」と声に出してツッコみたくなるような、「ツッコミ待ち」なストーリーが続くところがウケがよさそうです。
文章は多めですが、翻訳の上手さを感じるリズミカルな文体で、あきずに読みすすめることができます。
絵本のサイズとしては大きめで、絵がとてもダイナミック。
画面の大きさを利用した疾走感、躍動感がしっかりと表現されています。
すごくリアルなタッチというわけではないけれど、ガチョウの一枚一枚の羽根の動き方だったり、アヒルのモコモコとした丸みだったりが、リアルな雰囲気もありつつ絵本であるかわいさも持っている、そんな中間に立っている気持ちよさを絵から感じます。
そして、五島さんは読んで3回目くらいにやっと気づいたといいますが、絵はもともと色のついた紙に描かれているんです。
ページによって紙がちょっとずつ変わっていて、こんな暗いシーンでは、もともとチャコールっぽい紙の上にパステルなどで描かれているのが分かります。
通常であれば白い紙に背景色を塗る方法を浮かべがちですが、色のついた紙に描くことで、こんなふうにアヒルの真っ白な体やガチョウのおしりの白さ、モクモクと上がっているスープの湯気が、より手前に見えるような引き立たせ方がなされています。
この技法に五島さんはなるほど! と関心していました。
でも最初に読んだときは全然感じなくて、じっくり見て初めて気づいたというくらい違和感がなく読み進めていたそうです。
また、もともと色のついた紙だからこそ、葉っぱのふちの表現がけずって描かれているなど、他の絵本にはない魅力があったり、ガチョウやアヒルの羽根の質感との相性のよさだったりを感じます。
ガチョウやアヒルはかなり表情豊かに描かれていて、感情移入しやすいポイントになっています。
動きが止まっているときはピタっと無表情でいたり、最後に打ちとけるシーンではニコッと笑っていたり、そんな人間っぽさがあるので、自分もガチョウやアヒルの立場になって読むことができます。
一方キツネはしっかりと悪役として描かれています。
多くの絵本に悪役として登場するキツネ。
動物としてキツネが好きという五島さんは、キツネが悪役で出てくると、「かわいそう……」とか「このキツネにも事情があるのでは……?」とかばいたくなるそうですが、この絵本に関してはキツネが本当に悪いヤツに見えるように描き切られていて、「やっつけてしまえ〜!」という気持ちになったといいます。
リズミカルで読みやすい文章と、絵の技法に注目の一冊。
大人が読めば笑えるし、子どもが読めばハラハラできる、どちらの世代にもおすすめの絵本です。
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