『もんだい』刊行記念! 井筒啓之×岩崎夏海トークショー
イラストレーターの五島夕夏さんがおすすめの絵本を紹介するYouTubeチャンネル「五島夕夏の絵本チャンネル」。
今回は、先日行われたと『もんだい』刊行記念トークショーについて五島さんが語ります!
トークショーの様子はこちら
井筒啓之×岩崎夏海 絵本『もんだい』刊行記念トークショー前編(1/3) - YouTube
井筒啓之×岩崎夏海 絵本『もんだい』刊行記念トークショー中編(2/3) - YouTube
井筒啓之×岩崎夏海 絵本『もんだい』刊行記念トークショー後編(3/3) Coming Soon
イラストレーター界の重鎮とベストセラー作家の最強タッグ
今回は、 井筒啓之さんの『もんだい』の刊行記念トークショーを見た感想をお伝えします。
以前このチャンネルで『もんだい』を紹介した際には、色の美しさや、表情の捉え方などについてお話ししました。
それらの最初に読んだときの感想が、作者の方や編集の方の話を聞いてみてどう変化したかをお伝えできればと思います。
トークショーは作者の井筒啓之さんと、編集を担当した岩崎夏海さんとの対談形式で行われました。
岩崎夏海さんは『もしドラ』などの作者としても知られるとても有名な方です。
一方井筒啓之さんも、TIS(東京イラストレーターズ・ソサエティ)の会長を務めるなどイラストレーター界の重鎮。
とてもすごい編集さんと、とてもすごいイラストレーターの方のタッグという、びっくりするような組み合わせです!
絵本の依頼が来るとは思わなかった
お二人の話が進んでいく中でとても面白いと思ったのが、岩崎さんは井筒さんに対して「こんなに知名度の高い方が絵本を書いてくれるなんて」という気持ちがあって、井筒さん自身は「僕の絵は決して絵本には向いていないと思っていたので、絵本の依頼が来るとは思わなかった」とおっしゃっていた部分です。
『もんだい』刊行記念トークショーレビュー前編 - YouTube
たくさんお仕事をされているとても有名であるお二人がそんな風に思うなんて、まだ駆け出しの私にとっては驚きです。
私みたいに若い人だけがそうやって何かに驚いたり、仕事に対する不安を持ったりするのだと思っていたのですが、お仕事ができる人だからこその驚きがあることに驚きました。
「気」をとらえた肖像
岩崎さんは、この絵本以前にも井筒さんが描かれていた、文豪シリーズなどの有名人のイラストをご覧になっていたそうで、それらの作品に対し「人間の気をとらえている」とおっしゃっていました。
デザインウィークの写楽インスパイアに出品した作品。20年ぐらいかけて描きためた作家の肖像(文庫本の表紙に描いてある)をB1ポスターにした。50人を2枚に分けてレイアウトしてある。 pic.twitter.com/oy4B2eOwkr
— Hiroyuki izutsu 井筒啓之 (@izu2) 2016年11月21日
ただ表面的に似ているとかではなく内面から出る気もとらえているというのはイラストレーターにとってものすごく素晴らしい褒め言葉だと思います。
確かに私から見ても、井筒さんの描く線はとても迷いがないのですが、それがちょっとでもズレていたら意味がないというような線でもあります。
すごく気持ちよく描かれているという印象です。
井筒さん自身が「絵本には向いていないと思っていた」とおっしゃっていたのも分かるくらい、大人が見てグッとくるものがあるタッチだと思っていたので、それを岩崎さんが絵本にしようと思う発想がすごいですよね。
そしてそこに合わせて、しかし自身のスタンスは変えずに歩み寄る井筒さん。
どっちもすごい人が、お互いの譲れないところはしっかりと柱があって、譲れるところはとことん譲り合って近づいて作り上げていく過程が、このトークショーですごく伝わってきました!
いやーすごいな! とにかくすごいなっていう感想が前面に出たお話でした。
両者が持つ揺るぎない柱
この『もんだい』という絵本、すごく言葉の量が少ないんです。
見開きでひとことだけ問いがあるページが進んでいくだけなので、とってもシンプル。
井筒さんは最初、こんなに言葉の少ない絵本があるのかと驚いたそうです。
でも岩崎さんには、余分なものをそぐことで本質的に見えてくる、井筒さんの美しい線とタッチと言葉という、その3点だけでも十分成り立つという自信があったと語っていました。
岩崎さんを納得させてしまう井筒さんのタッチももちろんすごいし、これしかいらないと言い切れる岩崎さんもすごいと思いました。
ただやっぱりそこにたどり着くまでには、何かを足したりそぎすぎたりと、一直線に進んできたでわけではないというお話もされていました。
例えば、井筒さんがラフの段階で描いた落書きが面白かったので、岩崎さんはそれを入れたいとずっとおっしゃっていたけども、最終的には結局それもない方がいいんじゃないかという結論に至ったそうで。
岩崎さんは自分で頼んだにもかかわらず、やっぱりなくして欲しいと井筒さんにお願いしたという話をされていました。
それって信頼関係が成り立っているからこそできることですよね。
どちらかが言いなりだったり、どちらかが頼り切っていたりしていたら、片方のイメージや絵本に対する思いだけがのった一冊になってしまっていたかもしれない。
井筒さんの持つイラストで譲れない部分や、今まで積み上げてきた経験に基づいた絵本に対する思いと、岩崎さんの持つ絵本の新しいイメージや岩崎書店から出すことの意味。
それらの揺るぎない二本の太い柱が立っているのが、お話を聞いて分かりました。
絵で行間を補完する
イラストレーターをしている私が個人的に面白いと思ったのは、文学というものの話になったとき。
岩崎さんによれば「文学というのは、書けば書くほど書ききれないものが出てくる。書けるものと書けるものの行間に、本当は書きたいけど書けないものが生まれてくる」といいます。
これまで数々の挿し絵を描いてきた井筒さんはその話を聞いて、「挿し絵を描くときには、行間を読んでそれを補完するような絵を描くこともある」とおっしゃっていたんです。
『もんだい』刊行記念トークショーレビュー後編 - YouTube
お互いの隙間を埋め合うかのように、絵でできることと言葉でできることのバランスがすごくいいお二人だと思いました。
それが今回絵本という形で、作家さんと編集さんとして組み合わさったときに出来た一冊が『もんだい』だと思うと、さらに感慨深く読むことができます。
私はイラストレーターとして挿し絵を描くときに、そういった行間を読むことや、言葉で書き表わせないものを自分だったらどう描くだろうと補完するようなことを、まだそこまで実感を持って行ったことがなかったので、とても勉強になりました。
きっとそれは文学のこともある程度理解していなきゃいけないし、挿し絵を描いてほしいと頼む著者の方も、ある程度絵のことを理解していなきゃいけない。
持ちつ持たれつであり、相手に頼り切らず自分の柱をきちんと持つことがいかに大事かということも、このお話を通して感じました。
それは絵本に関してだけでなく、どんなことにも言えること。
今回、トークショーの話題は絵本に関することでしたが、絵本以外にもあてはまることをたくさん感じました。
絵本にもっと関わってみる
前回、『ぼくのにゃんた』を紹介したときに、作者の方のお話を聞くとまた絵本の見方が変わってくるという話をしたのですが、それは今回のことにもすごく言えるなと思って。
一度何も考えずに一冊読んでみて、その後に、実は作者ってどんな方なんだろうと調べてみたり、編集さんの名前を調べて、同じ人が編集した絵本を見つけてみたり。
自分が感じたものがある一冊に、もうちょっと深く関わろうとする時間っていうのは、すごく心を健やかにするような気がします。
私も同じイラストレーターとしてもっとがんばりたいと思ったとともに、すごく素敵な一冊だと、お話しを聞いてさらに思いました。
みなさんもぜひ、井筒啓之さん作で岩崎夏海さん編集の『もんだい』を、手にとって読んでみてください!
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『もんだい』刊行記念トークショーレビュー前編 - YouTube
『もんだい』刊行記念トークショーレビュー後編 - YouTube