絵もおはなしもへんてこ!? 長新太『かさもっておむかえ』
YouTubeチャンネル「五島夕夏の絵本チャンネル」では、イラストレーターの五島夕夏さんがおすすめの絵本を紹介しています。
今回紹介するのはこちらの絵本です!
征矢 清 さく、長 新太 え『かさもっておむかえ』。
五島さんが持っているのはソフトカバー版。
月刊絵本シリーズ「こどものともセレクション ものがたりえほん36」の中の一作になっているもので、古本屋で手に入れたそうです!
ハードカバーの単行本でも出ています。
絵の長 新太(ちょう しんた)さんは、他にも『ごろごろにゃーん』や『キャベツくん』などの有名作をはじめ、たくさんの絵本を描いている人です。
五島さんは好きな絵本画家は海外の人が多いけど、日本人だと長 新太さんが一番好きなんだそうです。
この『かさもっておむかえ』は、本の薄さと絵のゆるさに反して文章量は多めで、じっくり読もうとするとわりと時間がかかるかもしれません。
期待を裏切らないへんてこさが文章につまっていて、長新太さんの絵がぴったりなストーリーになっています。
雨ふりの中、傘を持って駅にパパを迎えに行った女の子。
パパがなかなか帰ってこなくて待っていると、ある猫がいきなりトコトコ歩いてやってきて、地下鉄までパパを迎えに行こうと誘ってきます。
ついていくと、ホームに赤い車両が続く中、一個だけ緑色の車両が。
パパを迎えに行くために猫と一緒にその車両に乗ると、車内に座っていたのは全部動物だったんです。
そんなおかしなシーンでも猫はそれが当たり前であるかのような振る舞いをするのですが、長新太さんの絵と文章とのマッチングもあって、「あれ、こっちが間違ってるのかな?」みたいな気持ちにさせる魅力があります。
子供の頃の五島さんも、「あれ、もしかして緑の車両は動物の車両だったかな」という思いになってしまったそうです。
そのくらい、スッと入ってくる気持ちいい文章です。
最後は、ハッピーエンドというわけでもなく、悲しいおはなしというわけでもなく、なんとなくハテナがついたまま、ページを追うごとにハテナが増えていきながら終わっていく感じ。
気持ちよくパタンと閉じてさあ寝ようというよりは、いい意味で後味が残る終わり方。
序盤はわりと普通に見られる内容なのに、謎の猫の登場により「なにこのおはなし!?」といきなり突き落とされる感じは、大人が読んでもカオスで面白いと思います。
そして、なんといっても長新太さんの独特の絵がおすすめポイントです。
くまの耳がやたら大きかったり、その隣のオオトカゲ(らしい……)の奇抜な色使いだったり……。
色や形、大きさの比率がへんてこで、「あれ?」という不思議な気持ちにさせられます。
そもそもこのおはなしがへんてこだし、 絵本自体もそもそもへんてこなものだし、だから全部が全部許されているし、それが長新太さんのユーモアの才能ではと、五島さんは語っていました。
本来凶暴なはずのくまがふつーな感じで、こんな風にていねいに鎮座してる様子って、すごくシュールですよね。
みんなおとなしく、しゃべるわけでもなくただ前を向いて座っている様子からは、実際に地下鉄でよく見る人間たちの光景を、このへんてこな動物たちに置き換えていることで、とたんにシュールで不思議な、空想世界の空気感が伝わってきます。
こんな風に、まっすぐこっちを見てくる動物たちとか……
子供の頃の五島さんはこれを見て、「動物ってこんなだったっけ!?」悶々! という気持ちになっていたといいます。
また雨ふりのシーンでの真っ青な世界や、頭に残るちいさな真っ黄色の傘など、色彩としてもとても素晴らしいんです。
長新太さんの目に映る色を共有できているようで、何を考えてるのかよくわからない人の頭の中を具体的に示してくれているような魅力が、この絵本には詰まっています。
冒頭で紹介した 『ごろごろにゃーん』は絵の具タッチではなくペンで描かれた画風だったり、他にも絵本によって異なる画風で描かれていたりと、作品ごとに長新太さんの魅力はちょっとずつ変わっていくのがわかると思うので、ぜひ他の絵本と一緒に流れで見てみてください。
かつて子どもだったすべての人に読んでほしい一冊です。
子どものときに感じた謎や夢を思い出すいいきっかけになるのではないでしょうか。
征矢清さんのおはなしも長新太さんの絵とのマッチングが素晴らしいので、ぜひ一度手にとって、最後までじっくり読み込んでみてください!
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