男の子にも女の子にもおすすめ!『はたらきもののじょせつしゃけいてぃー』

YouTubeチャンネル「五島夕夏の絵本チャンネル」では、イラストレーターの五島夕夏さんがおすすめの絵本を紹介しています。

 

今回紹介するのはこちらの絵本です! 

はたらきもののじょせつしゃけいてぃー (世界傑作絵本シリーズ―アメリカの絵本)

バージニア・リー・バートン『はたらきもののじょせつしゃけいてぃー』。

以前紹介した『ちいさいおうち』の作者さんと同じ人が描いた作品です。

こちらは『ちいさいおうち』ほどの知名度はないかもしれませんが、本屋さんなどに置いてあるとぱっと目立つ色の表紙なので、なんとなく頭に残っている人もいるかもしれません。

 

絵柄は、『ちいさいおうち』同様、細かい書き込みが特徴的。

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きっとこの作者さんは細くものが動いていく様子や、少しずつ街が変化していく様子が好きなのではという五島さん。

一種のそうした癖というか、細々したものが好きというちょっとした変態性みたいなものを感じるとのこと。

そんなところから、この人は楽しみながら書いてるなっていうのが、『ちいさいおうち』のあと二冊目にこの絵本を知ったときに感じた第一の印象と語っていました。

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トラクターのけいてぃーは、働き者で力持ちなので街のみんなから頼りにされてます

いろんな部品がついてブルドーザーになったり、物を押す力を持っていて、除雪機をつけて作業したりと、どちらかというと女の子よりも男の子心をくすぐるようなキャラクターになっています。

女の子だった(五島さん「今も女の子だけど!」)幼少時代の五島さんは、『ちいさいおうち』に対しても思ったように、周りの飾りや飾り文字にとても魅力を感じたといいます。

 

こんなふうに、けいてぃーが真ん中に描かれている周りに、ちょっとずつ動いて作業している様子が帯のようにかわいく飾られていたり、

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本文とは別のところで、漫画のコマのようにちょっとずつ進んで説明している表現があったりと、

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そうしたところにすごくときめいた、と当時を振り返っていました。

 

色も『ちいさいおうち』と同様、ビビットで鮮やかでかわいらしいですよね。

男の子が好むような内容やキャラクターと、女の子が好むような飾りや色が、どちらも盛り込まれている絵本になっています。

あまりに小さなお子さんの場合では伝わらない部分もあるかもしれませんが、5、6歳から小学2年生ぐらいまでの子のたちにはドンピシャにハマるような一冊ではないでしょうか。

 

内容を進めていくと、ある日街に大雪が降り、除雪車としてのけいてぃーの出番がやってきます。

すると今までずっとカラフルなページが続いていたにもかかわらず、いきなりこんな真っ白で文字だけが入っているシーンが現れます。

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これはただたんに白い背景の上に文字をのせただけというわけではなく、次のページになると、その白い画面をさくようにして、けいてぃーがこっちに向かってくるんです。

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一度読んだだけだと、背景が真っ白な中に文字が書いてあるという印象のまま進んでいくのですが、けいてぃーが出てきてからはこの背景が一面の雪の街に見えてきます。

けいてぃーが突き進んでいくのを見ていくと、頑張って雪を全部かきわけてほしいという、はやる気持ちでページを進めていくようになる──その切り替えのページになっています。

 

徐々に街が頭を出し少しずつ人が見えてきて、だんだんいつも通りの街に戻っていく様子を見ていくと、この街の住人みたいな気持ちでほっとして読み進めることができます。

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最初に活躍しているけいてぃーをたくさん見せることで、応援したくなる気持ちや早く読み進めたいという気持ちをもたせ、読み手にスピード感を出させるという手法がすごく面白いと関心していました。

 

最終的には、ひともんちゃくありつつも、大活躍したけいてぃーによって美しい街が再び顔を出すといったストーリーになってるので、内容としてはとてもシンプルといえます。

しかしシンプルな中にも、文字で遊びを効かせていたり、けいてぃーの活躍の仕方にひねりがあったり、上述のような雪に見えてくる表現があったりと、ちょっとしたタネでおはなしを膨らませているという印象です。

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こどもの頃と大人になってから見るのとではかなり見方が変わるので、一度読んだことがある方もぜひ二回三回と読みなおしてほしい、そんなタネがあるような絵本になっています!

 

またページの中には、ちいさいおうちみたいなおうちがチラッと描かれている場面も。

同じ作者さんの絵本を何冊か違うシリーズのものを買ってみると、そんな楽しさもあるのでおすすめです。

ハマったら何冊か買って、もしかしてこのキャラクターってあのときに出てきたキャラクターに似てない? なんていうのをお子さんと一緒に(または独りで)楽しむとすごくいいのではないでしょうか。

 

ということで今回は、『はたらきもののじょせつしゃけいてぃー』をご紹介しました。

動画で詳しく解説しています。ご視聴&チャンネル登録お願いします!

 

男の子にも女の子にもおすすめ!『はたらきもののじょせつしゃ けいてぃー』を紹介 前編

あのキャラも登場!?『はたらきもののじょせつしゃけいてぃー』後編

 

旅行先で購入した絵本を紹介!旅先で絵本を買うことをオススメする理由と、絵本の楽しみ方

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今回は、五島さんが海外旅行先で買ってきたという絵本を紹介しました!

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縦長のフォルムが目を引くこちらの絵本。

『ŽVEJKAČKY』と書いてありますが……読めません!

旅行先のチェコで購入したそうです。

 

五島さん自身もこの絵本に関する情報はあやふやで、おそらくBAOBAB BOOKSというところが出している、Marka Míkováという歌手の人の歌詞が書いてあるのでは……? というところまではなんとなくわかったそうです。

 

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中を開くと、とっても色が綺麗で鮮やか。

シルクスクリーンのような印刷をされていて、紙もちょっとレトロなクラフト紙っぽいものが使われています。

その紙の上に乗った色の発色が綺麗で、旅行先でわっと驚いたという五島さん。

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チェコの本屋さんでたくさん絵本がある中で、この絵本は特徴的な形ということもあり目立っていて、まずはそこに惹かれて手に取ったけど、中身を開いた途端、「これが欲しい!」と瞬間的に思ったそう。

 

文章は英語じゃないのでしっかりは読めませんが、「ラララ」などの表現があることからおそらく歌詞が書かれていて、その歌詞のイメージに合ったビジュアルが見開きでプリントされているのだと思われます。

レトロな雰囲気やザラッとした質感がとても素敵で、

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こんなふうに紫の地平線の上にちょっと出るピンク色といった表現からは、おしゃれでありながら、乙女心をつかまれる素朴さや懐かしくなるような感覚が受けられます。

 

海外に行くとその土地の絵本を必ず1冊買うようにしているという五島さん。

旅先で絵本を購入するという、旅の思い出も一緒に帰る感じが好きだといいます。 

この絵本を買ったときも、とても蒸し暑い日で、お腹いっぱいイタリアンを食べた後、すごく歩き疲れて入った本屋さんが涼しくて、それがすごく嬉しくて、この絵本を見つけてもっともっと嬉しくて……

そんな想いも全部この絵本のせて日本に持ち帰るという一連の動作が好きで、海外旅行の楽しみ方としてみなさんにも是非オススメしたいと語っていました。

 

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もちろんこの絵本自体とても素敵な作品なので、日本で見つけたとしても魅力を感じることはできると思います。

しかし、初めて行ったわくわくするヨーロッパの一つの国の中で、たまたま入った本屋さんでたまたま出会った一冊、というストーリーにすごくロマンを感じますよね!

 

絵本というものにはとにかく文字が読めなくても伝わる何かがあります。

しかし大人の方だと、絵本の文章の中になにか深い意味を見出さなくてはと、難しく捉えてしまいがちかもしれません。

絵やキャラクターに対しても、なにか意味があるのではといろんな憶測をしてみたり……。

それも一つの見方ではありますが、もっと簡単に、見たものをただきれいだと思うのが絵本の楽しみ方ではないでしょうか。

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絵本を描いている人の中にも、子供になにか深いメッセージを伝えたいと考えている人は実はすごく少なくて、ただそのキャラクターの気持ちのいい動き方に素直に描いている人もたくさんいるんです。

そこに先入観を持たずに、ただ絵がきれいという感性だけで絵本を選んでいいのではないでしょうか。

 

ぜひ海外に行った際には絵本を購入して、そこでしか出会えない感動を旅の思い出と一緒に持ち帰ってみてください。

絵本は比較的丈夫でかさばらないので、旅先から持ち帰るものとして実は適していますよ。

また小説などと違って文字が読めなくても楽しめるので、そうした捉え方で絵本を見ていただければと思います。

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五島さんもこの絵本を、深く考えずただ開いて色がとても好きだったから買ったそうです。

そういう簡単な気持ちで絵本を見てくれる人が増えたら嬉しいと語っていました!

 

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旅行先で購入した絵本を紹介前編!チェコで見つけた縦長の絵本『ŽVEJKAČKY』?

旅行先で購入した絵本を紹介後編!旅先で絵本を買うことをオススメする理由

 

みんな大好き♪ピーターラビットの絵本

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今回紹介するのはこちらの絵本です! 

ピーターラビットのおはなし (ピーターラビットの絵本 1)

ビアトリクス・ポターピーターラビットのおはなし 』。

みんな大好きなピーターラビット、知らない人はいないと思います!

でもピーターラビットの絵本を最初から最後まで読んで覚えている人は少ないかもしれません。

実はピーターラビットの絵本には、おなじみのうさぎのピーターラビットがメインのおはなしだけじゃなくて、こんなふうにカエルがメインのおはなしや

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ジェレミー・フィッシャーどんのおはなし (ピーターラビットの絵本 17)

その他シリーズでたくさんのおはなしがあるんです。

それぞれ主人公がとても魅力的なので、ぜひほかの絵本もチェックしてみてください!

 

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このピーターラビットのおはなし』、表紙や中のイラストを見た限りでは、かわいい子うさぎのほんわか系の内容を想像しがちですが、実際にはちょっと違います。

結構残酷だったりエグい展開があったりして……かわいいだけの絵本ってわけじゃないんです。

 

たとえば、畑で悪さをしたピーターラビットが、畑の主人のマクレガーおじさんに追いかけまわされるシーンでは

「ぎゅっとピーターをふみつけようとした」という文章が。

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こんなかわいい子うさぎをふみつけようとする人間が出てくるなんて! と五島さんは衝撃をうけたそうです。

それでもピーターラビットはかなり悪ガキなので、人間側の気持ちにも共感できたり、こういう人いるいる! と思えたりするような、微妙に日常にリンクした雰囲気が、この作品独特の世界観なのではないでしょうか。

 

さきほどの『ジェレミー・フィッシャーどんのおはなし』のカエルも、ピーターラビットも、キャラクターは完全な動物ではなく、だからといって完全に擬人化されているわけでもないというところが、引き込まれるポイントになっています。

ピーターラビットはこのように青いシャツをはおっていたり、ちゃんとベッドに入って寝ていたり、まるで人間みたいな生活をしています。

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でもいざマクレガーおじさんに追いかけられるとピーターラビットは4足で走るんです。

うさぎの性質を残しつつも、ちょっとおかしな人間みたいな生活をしている……。

そんなところが、実はこの世界のどこかにこんなうさぎがいるんじゃないかと思わせるような、うまい線をついています。

五島さんも小さい頃、もしかしたらピーターラビットみたいなうさぎが家の近くにもいるかもしれないと、探したくなる気持ちがあったと話していました。

 

ジェレミー・フィッシャーどんのおはなし』のカエルも、どっぷりとした体で綺麗なシャツを着ていたり、ニコニコしたりと、人間の“ちょっといいとこのおっさん”みたいな生活をしているんです。

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でもいざ釣りをしている最中に危機に直面すると、いきなり本当のカエルのような動きになり、魚から逃げるときは思いっきりカエル足で泳いでいく……。

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そんな絶妙に人間くさくて愛せる要素がありつつ、カエルらしい──なんだか気味の悪い部分もある。

そこがまさにこの作者が描くうまいラインです。

作者にとっては言葉を話さない動物園の動物たちもこんな風に見えているのか思うと、その頭の中を絵で描ききる才能みたいなものをすごく感じると五島さんは語っていました。

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このカエル、飛んでるときはもろカエルなのに、釣りをしている姿はちゃんと足をそろえて座っていて、すごくきれいな体勢。

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きっとこのカエルは自分がカエルだということを忘れる時間もありながら、いざ本能的な部分を呼び起こされると本来のカエルの姿に戻るという、面白いギャップを抱えながら生きているのではないでしょうか。

 

今回はたくさんあるピーターラビットの絵本シリーズの作品の中から、『ピーターラビットのおはなし』とジェレミー・フィッシャーどんのおはなし』を詳しく紹介させていただいたのですが、そのほかに五島さんが特におすすめするのはこちらの作品です。

まちねずみジョニーのおはなし 新版 (ピーターラビットの絵本 9)

まちねずみジョニーのおはなし 』。

五島さんいわく、これに出てくるネズミが「すこぶるかわいい!」

リアルタッチな筆の使い方をしていなくても、ねずみのふわふわ感や柔らかさ、小さくてすぐ壊れちゃいそうな感じがすごくきれいに描かれています。

街や植物などの色合いも本当に気持ちいいのでそちらもぜひチェックしてみてください!

 

最後に、五島さんがピーターラビット絵本で好きなシーンというのがこちら。

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ピーターラビットが畑でにんじんを食べあらしちゃうシーン。

生のにんじんをすごく美味しそうに食べています。

食べている様子がとっても気持ち良さそうで、にんじんの色もきれいで、食感も伝わってくるようです。

こんなおいしそうなシーンを見たら、にんじんが嫌いな子どもでも、ちょっと食べてみようかなという気持ちになるのではないでしょうか。

全国のにんじん嫌いの子を持つ親御さんは、ピーターラビットもおいしそうに食べているよと、このページを見せてあげてください!

 

 

今回は、ピーターラビットの絵本シリーズをご紹介しました。

たくさんおはなしがあるので、それらもぜひ読んだらYouTubeのコメント欄で、感想おしえてくださいね!

 

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絵もおはなしもへんてこ!? 長新太『かさもっておむかえ』

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YouTubeチャンネル「五島夕夏の絵本チャンネル」では、イラストレーターの五島夕夏さんがおすすめの絵本を紹介しています。

 

今回紹介するのはこちらの絵本です! 

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征矢 清 さく、長 新太 え『かさもっておむかえ』。

五島さんが持っているのはソフトカバー版。

月刊絵本シリーズ「こどものともセレクション ものがたりえほん36」の中の一作になっているもので、古本屋で手に入れたそうです!

 

ハードカバーの単行本でも出ています。

かさもって おむかえ(こどものとも絵本)

かさもって おむかえ(こどものとも絵本)

 

 

絵の長 新太(ちょう しんた)さんは、他にも『ごろごろにゃーん』や『キャベツくん』などの有名作をはじめ、たくさんの絵本を描いている人です。

ごろごろにゃーん (こどものとも傑作集)

キャベツくん (ぽっぽライブラリ みるみる絵本)

五島さんは好きな絵本画家は海外の人が多いけど、日本人だと長 新太さんが一番好きなんだそうです。

 

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この『かさもっておむかえ』は、本の薄さと絵のゆるさに反して文章量は多めで、じっくり読もうとするとわりと時間がかかるかもしれません。

期待を裏切らないへんてこさが文章につまっていて、長新太さんの絵がぴったりなストーリーになっています。

 

雨ふりの中、傘を持って駅にパパを迎えに行った女の子。

パパがなかなか帰ってこなくて待っていると、ある猫がいきなりトコトコ歩いてやってきて、地下鉄までパパを迎えに行こうと誘ってきます。

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ついていくと、ホームに赤い車両が続く中、一個だけ緑色の車両が。

パパを迎えに行くために猫と一緒にその車両に乗ると、車内に座っていたのは全部動物だったんです。

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そんなおかしなシーンでも猫はそれが当たり前であるかのような振る舞いをするのですが、長新太さんの絵と文章とのマッチングもあって、「あれ、こっちが間違ってるのかな?」みたいな気持ちにさせる魅力があります。

 

子供の頃の五島さんも、「あれ、もしかして緑の車両は動物の車両だったかな」という思いになってしまったそうです。

そのくらい、スッと入ってくる気持ちいい文章です。

最後は、ハッピーエンドというわけでもなく、悲しいおはなしというわけでもなく、なんとなくハテナがついたまま、ページを追うごとにハテナが増えていきながら終わっていく感じ。

気持ちよくパタンと閉じてさあ寝ようというよりは、いい意味で後味が残る終わり方。 

序盤はわりと普通に見られる内容なのに、謎の猫の登場により「なにこのおはなし!?」といきなり突き落とされる感じは、大人が読んでもカオスで面白いと思います。

  

そして、なんといっても長新太さんの独特の絵がおすすめポイントです。

くまの耳がやたら大きかったり、その隣のオオトカゲ(らしい……)の奇抜な色使いだったり……。

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色や形、大きさの比率がへんてこで、「あれ?」という不思議な気持ちにさせられます。

そもそもこのおはなしがへんてこだし、 絵本自体もそもそもへんてこなものだし、だから全部が全部許されているし、それが長新太さんのユーモアの才能ではと、五島さんは語っていました。

 

本来凶暴なはずのくまがふつーな感じで、こんな風にていねいに鎮座してる様子って、すごくシュールですよね。

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みんなおとなしく、しゃべるわけでもなくただ前を向いて座っている様子からは、実際に地下鉄でよく見る人間たちの光景を、このへんてこな動物たちに置き換えていることで、とたんにシュールで不思議な、空想世界の空気感が伝わってきます。

 

こんな風に、まっすぐこっちを見てくる動物たちとか……

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子供の頃の五島さんはこれを見て、「動物ってこんなだったっけ!?」悶々! という気持ちになっていたといいます。

 

また雨ふりのシーンでの真っ青な世界や、頭に残るちいさな真っ黄色の傘など、色彩としてもとても素晴らしいんです。

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長新太さんの目に映る色を共有できているようで、何を考えてるのかよくわからない人の頭の中を具体的に示してくれているような魅力が、この絵本には詰まっています。

冒頭で紹介した 『ごろごろにゃーん』は絵の具タッチではなくペンで描かれた画風だったり、他にも絵本によって異なる画風で描かれていたりと、作品ごとに長新太さんの魅力はちょっとずつ変わっていくのがわかると思うので、ぜひ他の絵本と一緒に流れで見てみてください。

 

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かつて子どもだったすべての人に読んでほしい一冊です。

子どものときに感じた謎や夢を思い出すいいきっかけになるのではないでしょうか。

征矢清さんのおはなしも長新太さんの絵とのマッチングが素晴らしいので、ぜひ一度手にとって、最後までじっくり読み込んでみてください!

 

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絵もおはなしもへんてこ!?『かさもって おむかえ』を紹介 前編

絵もおはなしもへんてこ!?『かさもって おむかえ』を紹介 後編

 

思わずツッコみたくなる!『うごいちゃだめ!』

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今回紹介するのはこちらの絵本です! 

うごいちゃだめ!

エリカ シルヴァマン ぶん、S.D. シンドラー え『うごいちゃだめ!』。

訳は他の多くの絵本でも翻訳を担当しているせなあいこさん。

 

泳ぎや飛び方で競っていた負けずぎらいのガチョウとアヒルが、「うごいちゃだめ」ゲームを開始。

顔のまわりに虫が飛んできても、他の動物が寄ってきてもがまんして動かず……。

そこへ、悪いキツネがやってきて、2匹を袋につめて持って帰って食べてしまおうとたくらみます。

それでも動かないガチョウとアヒルは、キツネとどう決着をつけるのか……?

 

いやキツネに持ってかれそうになったらさすがに動くでしょ!?

 

と、思わずツッコミを入れたくなるストーリーと、全体的にまぬけな雰囲気に、クスッと笑ってしまいます。

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おそらく対象年齢は5〜6歳かと思われますが、きっと子どもでもこの絵本を読み聞かせてもらったときに「なんでうごかないの〜!?」と声に出してツッコみたくなるような、「ツッコミ待ち」なストーリーが続くところがウケがよさそうです。

 

文章は多めですが、翻訳の上手さを感じるリズミカルな文体で、あきずに読みすすめることができます。

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絵本のサイズとしては大きめで、絵がとてもダイナミック。

画面の大きさを利用した疾走感、躍動感がしっかりと表現されています。

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すごくリアルなタッチというわけではないけれど、ガチョウの一枚一枚の羽根の動き方だったり、アヒルのモコモコとした丸みだったりが、リアルな雰囲気もありつつ絵本であるかわいさも持っている、そんな中間に立っている気持ちよさを絵から感じます。

 

そして、五島さんは読んで3回目くらいにやっと気づいたといいますが、絵はもともと色のついた紙に描かれているんです。

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ページによって紙がちょっとずつ変わっていて、こんな暗いシーンでは、もともとチャコールっぽい紙の上にパステルなどで描かれているのが分かります。

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通常であれば白い紙に背景色を塗る方法を浮かべがちですが、色のついた紙に描くことで、こんなふうにアヒルの真っ白な体やガチョウのおしりの白さ、モクモクと上がっているスープの湯気が、より手前に見えるような引き立たせ方がなされています。

この技法に五島さんはなるほど! と関心していました。

でも最初に読んだときは全然感じなくて、じっくり見て初めて気づいたというくらい違和感がなく読み進めていたそうです。

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また、もともと色のついた紙だからこそ、葉っぱのふちの表現がけずって描かれているなど、他の絵本にはない魅力があったり、ガチョウやアヒルの羽根の質感との相性のよさだったりを感じます。

 

ガチョウやアヒルはかなり表情豊かに描かれていて、感情移入しやすいポイントになっています。

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動きが止まっているときはピタっと無表情でいたり、最後に打ちとけるシーンではニコッと笑っていたり、そんな人間っぽさがあるので、自分もガチョウやアヒルの立場になって読むことができます。

 

一方キツネはしっかりと悪役として描かれています。

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多くの絵本に悪役として登場するキツネ。

動物としてキツネが好きという五島さんは、キツネが悪役で出てくると、「かわいそう……」とか「このキツネにも事情があるのでは……?」とかばいたくなるそうですが、この絵本に関してはキツネが本当に悪いヤツに見えるように描き切られていて、「やっつけてしまえ〜!」という気持ちになったといいます。

 

絵の技法にも注目『うごいちゃだめ!』を紹介 後編

絵の技法にも注目『うごいちゃだめ!』を紹介 後編 

リズミカルで読みやすい文章と、絵の技法に注目の一冊。

大人が読めば笑えるし、子どもが読めばハラハラできる、どちらの世代にもおすすめの絵本です。

 

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全体的にまぬけな雰囲気!?『うごいちゃだめ!』を紹介 前編

絵の技法にも注目『うごいちゃだめ!』を紹介 後編

 

意味不明!?レオ・レオニ著・谷川俊太郎訳『シオドアとものいうきのこ』

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今回紹介するのはこちらの絵本です!

シオドアとものいうきのこ

レオ・レオニ著・谷川俊太郎訳『シオドアとものいうきのこ』。

レオ・レオニさんは、『スイミー』や『フレデリック』などの人気作品でもよく知られる、有名絵本作家です。

スイミー―ちいさなかしこいさかなのはなし フレデリック―ちょっとかわったのねずみのはなし

 

『シオドアとものいうきのこ』は、レオ・レオニさんの数ある絵本の中では、それほど有名ではないかもしれません。

おはなしは、結構わけがわからないです(笑)

主人公であるねずみのシオドアが、からかわれるシーンがあったかと思いきや、青くて印象的な大きなきのこのふもとで寝そうになったかと思いきや、そのきのこが「クィルプ」としゃべり出して……!?

子どものころにそれを読んだ五島さんは、「きのこがしゃべるって!!!」とつっこんだそうです。

 

そんな意味不明なシーンが続くんですが、絵柄はとってもきれいです。

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五島さんにとっての「青」という色は、このきのこの青! というほど、頭に焼きついてはなれないくらいの色合い、色彩感覚だと語っていました。

 

レオ・レオニさんは日本でもとても人気で、原画展もよく行われていますが、原画を見るとまたすごく印象が変わります。

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こんなわけのわからないきのことか、ちょっとボサボサっとしたラフなねずみとかを描いているレオ・レオニさんですが、デッサンや、鉛筆での細かい描写の技術がとても高いんです!

ラフな線や切り抜きといった表現は、高度な技術があるからこそ成り立つのだなあと感服です。

 

この絵本ではコラージュという技法を使って描かれているのですが、もともときれいな模様の紙を切り抜いて使っているような部分もあれば、自分で絵の具を混ぜて作った紙を手でちぎって使っている部分もあります。

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そんなふうによく見ると、これは手書きかも、とか、こういう包装紙があるのかも、とかいろいろな発見がありますよ!

おはなしのわけのわからなさを忘れてしまうほどの抜群の美しさです。

 

中でも五島さんがトラウマだという絵がこちら

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青はきれいだしきのこも面白いけど、こんだけいてこんなにしゃべられたらこわいですよね!

おそらく子どもじゃなくても気色悪いと思ってしまいそうな衝撃的なページです。

こわいわ! レオ・レオニ『シオドアとものいうきのこ』を紹介 後編

こわいわ! レオ・レオニ『シオドアとものいうきのこ』を紹介 後編

 

レオ・レオニさんはかなり不思議なイラストも描く人で、有名な『スイミー』や『フレデリック』はおはなしもわかりやすくて万人に愛される絵本ですが、こういった美しいんだけどわけがわからない絵本もスパイス的に描けるというのが魅力的です。

有名な絵本がある人のあまり有名じゃない絵本として、一度有名な作品を読んだ上で、その人のちょっとアクの強い作品を読んでみると、両面性を知ることができて絵本の新しい見方になるのではないでしょうか。

 

レオ・レオニさんは何十冊もの絵本を描いていて、そのほとんどの作品の訳を谷川俊太郎さんが担当してるのですが、日本語の美しさもすごく感じることができます。

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とあるインタビューで、「絵本で何を伝えたいですか?」という質問に「何も伝えたいことはない、書き手が書いていることをそのまま訳しているだけ」と答えていた谷川俊太郎さんですが、日本語がすごく面白くて、大人でもちょっとよくわからない表現とか調べたくなるような言葉が出てくるので、文章にも注目しながら読み進めてみてください!

 

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おはなしの最後はちゃんとオチがあるのかと思えば、それもよくわからないオチで……そんな不思議な、実際に読んでみないとわからない気持ちのいい気持ちわるさみたいなものがあるので、ぜひ手にとって見てみてください!

 

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意味不明!? レオ・レオニ『シオドアとものいうきのこ』を紹介 前編

こわいわ! レオ・レオニ『シオドアとものいうきのこ』を紹介 後編

 

本当にあったお話!『ねこの看護師 ラディ』

YouTubeチャンネル「五島夕夏の絵本チャンネル」では、イラストレーターの五島夕夏さんがおすすめの絵本を紹介しています。

 

今回紹介するのはこちらの絵本です!

ねこの看護師 ラディ (講談社の創作絵本)

『ねこの看護師 ラディ』。

ポーランドで実際にあったお話を元にした絵本です。

 

黒猫のラディは捨て猫として、とても弱った状態で施設に連れてこられました。

徐々に回復したラディは、施設に運び込まれる弱っている動物たちに自然と寄り添うようになったのでした……。

 

猫好きの五島さんは、冒頭のラディが弱っているシーンですでに泣きそうになって、そこからだんだん元気になっていく様子を描いた最初の数ページで、ぐっと心をつかまれたそうです。

 

ラディは自分よりも大きな犬やヘラジカにも、怖がることなくゆっくりと近づいて、そっと寄り添います。

すると人間に対して警戒心があったりおびえていたりした動物たちも、落ち着いて心が安らぐようなしぐさを見せるようになるんです。

動物どうしだからこそ通じる心があるかのようで驚きです。

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ラディはまるで同じ動物としての痛みや、自分が経験した寂しさを共有しているかのような奇跡的なふるまいをするのですが、その様子は本当にあったお話だというのが信じられないくらいです。

 

五島さんは実家で猫を2匹飼っているけど、人間に寄りつかないどころか猫同士でも仲が悪くてケンカをしているようなハチャメチャな猫なので、同じ猫として心穏やかなラディを見習ってほしい! と語っていました。

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絵は上杉忠弘さんというイラストレーターの方が描いていますが、情緒あふれる絵で描く感動物語というよりは、一枚一枚が海外のグラフィックポスターのような美しいデザインになっています。

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一枚絵として完成されていて、色みや構図がとってもおしゃれ。

文章ではラディの心優しさや動物の痛みが情緒的に表現されていますが、一方で絵はすっきりと整理されています。

そんな文章と絵のギャップが、人を引きこませるひとつの魅力になっています。

 

またこのように文章が長く続くところでは、コマ割りのようにイラストを配置することでちいさな子どもにも飽きさせないようになっていたり、

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そうかと思えばいきなり大きな画面になったりと、

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大人に対してしっかりと読ませる文章がありつつも、子どもでも飽きることなく最後までワクワクドキドキハラハラしながら読めるイラストのタッチがついてきていて、子どもから大人まで幅広く、人を選ぶことなく読ませることのできる作品になっています。

 

最後のページでは我慢できず泣いてしまったという五島さん。

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でもそれは猫好きだからという理由ではないといいます。

猫が好きとか犬が好きとか関係なく、ちょっと最近心がすさんでるかもっていう大人の方が読めば、ぐっと心をあたためられると思いますよ!

絵本を読むというよりは、あたたかいお話をひとつ聞かせてもらったような、じんわりと広がっていく何かを感じます。

きっとそれは子どもにも通じる感動でもあるし、大人の方にとっては忘れていたあたたかさを取り戻させてくれるお話でもあるので、老若男女問わず読んでもらいたい一冊です!

 

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